コンサルタントの眼

第16回 心が折れない秘訣

~ 次の工程のお人の作業を愛する行為 ~

by 石川 恵美


プロジェクト・マネジメントに切羽詰まってご相談にいらっしゃる方々のほとんどが、大変真面目な気質をお持ちです。
そして、その方々の状況が、いくつかとても類似していることがあります。


1つは、「他の人が約束事を守ってくれない事が多い。自分は守ろうとしているが、守れない場合もある。プロジェクト進捗が遅延していく」というお悩み:①
2つめは、「約束事や作業内容の定義が、それぞれの人の価値観に依存してバラバラで、組織の判断がまとまらない」というお苦しみ:②
3つめは、「作業を実行する組織のリソース、スキルが適切でないから遅延が発生する」というお辛さ:③
昨今の産業状況からは、朝令暮改は日常茶飯事ですが、ゴールそのものがひっくり返ることも珍しくはなく、約束事そのものの定義が難しいですが、ここで約束事とは、会議議事録で決定するアクションリスト、ならびにスタンダップ・ミーティングなどでマネージャーやリーダーと交わしたToDo アイテムを指します。

「お約束事を決めたら期日までに実行する」はビジネスの基本ですね、
”作業内容を詳細にブレイクダウンして、実施計画を決め、それぞれが計画に沿って実施し、期日までに間に合わせる” これらのプロセスが適切でないと、お約束事は守れないですね。
まず①のお約束を守れないお悩みは、このプロセスのどこかに障害があることを意味します。
その理由がどこかに、ある。守らない人には守らない理由があるのです。
「守る人が少ない組織文化だから、別に守らなくてもいい」と感じている人が多い集団もあります。
最初の時点で、お約束事を守るという責任意識、文化がない組織もあります。

②のお苦しみは、ブレイクダウンの方向性や粒度が揃っていないため、定義が不明瞭だったり、勘違いが発生している状態で、お互いに譲れない状況に陥るケースです。
これは、基準がない、前例がないから比較できないなど、メンバそれぞれが共通の意識を共有できていないため、判断力が低下してしまうことが原因で、基準や比較を設けず、客観性のない判断を続けていくと、場当たり的な対応になりがちでですね。
判断というと、マネージャーやリーダーに任せてしまいがちですが、メンバ間での意識のすり合わせがチグハグで相違があると、作業工程の掛け違いが多発してしまいます。
顔を合わせていれば、掛け違いが発生しないと考える組織もありますが、指示を出す側の明文化、明意識化が無ければ、このお苦しみは繰り返されてしまうのです。
客観性には程遠い感情論、好き嫌いの波長が全面にでて「どういうこと?!」という会話が飛び交う事もあり、プロジェクト・ゴールから遠のいてしまいます。
そのため、この判断基準の共有は、とても複雑なプロセスです。

この状況で、どうやって、心が折れずに、いられるでしょうか?
そうです、普通なら心折れます、やってられないと思って当然です。

では、まず、「自分は悪い」「自分は悪くない」の判断を止めましょう。
悪い/悪くない という判断は、自分に対しても、他のお人に対しても、まず棚上げします。
責任議論に陥りがちですが、感情に走ると、良い成果を生みません。
そう、特に③のお辛さは、②の連鎖結果としてやってくることが多いので、まずは①②にフォーカスしてみます。

心が折れる、とは、「現在の自分の何かがしっくり感じていない、本来の自分でない」事を重ねていることによって生じる重みに耐えられなくなっている様子なのです。
人は、何かを実現することに喜びを感じ、本来の自分が求めている達成感が幸福度を上げます。

例えば、現在の自分のどこかに不安定さを感じている場合、状況と原因整理のために過去の経緯を洗い出す事は、とても大切です。
そのため、(株)アトリエ イシカワでは、プロジェクト・メンバに、以下の2つのことをお願いして実践しています。

1)ご自分の作業、思考の履歴を記録する
お約束事をご自分が守る立場の場合には、指示のあった日や内容、その定義を明文化し、実施(通知、配布)、完了報告を記録に残します。毎日の作業報告書というと大変な作業になりますが、ご自分の1日の履歴という観点ですので、作業内容の追跡ができるような簡便なテキスト入力でもかまいません。

例:
指示:会議のアクション・リストやメールその他の連絡のあった履歴、リンク先を保存します。
他のお人にお約束事を守っていただく場合にも、ご自分が指示を出す側の場合には、指示のリンク先をお知らせするようにしています。

実施内容:指示内容をブレイクダウンする場合には、その過程を記録しておきます。経緯報告を要求された場合にも有効です。他の方から回ってきたお約束は、特に、最初に定義を明確にしておく必要がありますね。
②で、判断基準があいまいな場合、迷った場合、「oo条件を基準として、xxと判断した。条件が変われば、再検討の余地あり」等のモヤモヤも記載します。実は、これが意識すり合わせで、重要な項目になることが多いのです。
例えば、次の作業の方が「Aさんがその基準なら、こちらもそれに合わせます」と自然に整列するようになったりするのです。明文化されていないと、これはできません。
そして過去の作業内容を振り返る時も、とても助かっています、
作業のブレイクダウンにも効果的で、実際にかかった時間日数管理にも役立ちますし、「何故、こんなに時間がかかっているんだ?」という問い合わせにも、明瞭に回答できます。

ご自分が約束を守れない場合には、その理由はこの中に記載していくことになります。
「お約束が守れない」という心の重圧で折れそうになった時、この思考の履歴を追えば、その原因を客観的に説明でき、他のお人に相談する場合にも、明文化されていれば、理解促進につながります。
「何を考えていたんだ?」という誤解を解くためにも、とてもおススメしています。

完了報告:いつ、誰に、何を報告したか?例えば、開催会議の議事録の保存先など、成果のリンクが追えるように記録します。

ご相談を伺っていると、ほとんどのお人は、他のお人の対応が自分の予測から大きく外れている事が原因で、自分ばかり損をしている、とストレスを感じていらっしゃいます。そのため、この感情を野放しにすると、議論は責任のなすりつけになってしまい、ゴールが遠のきます。
原因をつぶさに見ない限り、この議論の結論は、またひっくり返りますので、問題は繰り返されてしまうでしょう。もちろん、臭いものに蓋して見なかったことにしても、繰り返されてしまうでしょうね。

解決策はその過程の改善にあるため、「作業、思考の履歴を記録する」を実践すると、改善点が見つけやすく、ご自分の実績に自信が持てるようになり、理不尽な思いをしても、自信の根拠と実績をご自分にも他のお人にも示せるため、くじけなくなっていくことを実感しています。

そして私達は、これはご自分に対して効果があるだけでなく、心をこめて作業をし、次の工程のお人の作業を愛する行為だと思っています。それはすなわち、プロジェクト成果を慈しむことにつながり、相互理解を促進する仕組みづくりと考えております。

そして、もう1つは、
2)お約束を守らないお人への対処 という項目ですが、長くなりましたので、また次回にいたします。
という訳で、次回のコンサルタントの眼は、「第17回 心が折れない秘訣-2(仮題)お約束を守らないお人への対応」を掲載します。(たぶん木の芽の香りが心地よくなる頃)

2019/11/30


石川 恵美
    国内精密制御装置メーカ勤務後、1994年アトリエ イシカワを設立。
    専門は、半導体製造装置、検査装置、製造管理システム。
    アトリエ イシカワ代表取締役 装置プロデューサー/生産ラインコンサルタント